湯浅資之
室長挨拶

日本国内のみならず世界に発信できる成果を生み出す持続奈可能な健康長寿社会のモデルを一緒に創造しませんか!

私は学生時代にひょんな事からバングラディシュを訪問し、多くの人たちが貧困と病に喘ぐ現実を目の当たりにしました。その経験がきっかけとなり、卒業後は国際保健という主に開発途上国の公衆衛生の向上を支援する仕事に従事することになりました。これまで多くの途上国を訪れ、時にはそこに住み着いて国際保健、最近ではグローバルヘルスと呼ばれる分野で母と子の健康や感染症制圧に努めて参りました。

やがて機会があって日本に戻り、大学に奉職するようになると、急増している生活習慣病や少子高齢化の課題が日本に溢れかえっていることに気づきました。また、日本経済は新興国に追い抜かれ、国際競争力も影響力も急落し、萎縮するばかりの日本の現状に驚きました。日本は先進国の一員として平和で安定した国であるはずだという平成初期につくられた勇壮な姿が一気に崩れ始めたのです。途上国よりも「気がつけば途上国」に逆戻りした感のある日本の課題にこそ取り組まなければならないと痛感しました。
また大学人として、これから世界に飛び立たんとしている若者を育成する上で彼らの将来の専門性を考えた場合、いまだ国際保健の学界では母子保健と感染症の専門家を育成する体制のままにあることに違和感を覚え始めました。近い将来必ず、途上国といえども世界のどの国も直面するであろう生活習慣病と高齢化に対するプロフェッショナルを教育することが、彼らの将来に必要であろうと考えるようになりました。
今では生活習慣病や高齢化対策に果敢に挑戦している事例は枚挙にいとまがありません。しかし、医療や介護を社会から切り取って議論しているところを見るにつけ疑問を感じてきました。これらの課題は生活、食、雇用、地域、社会に深く根を張っているわけで、目前の医療、介護の問題だけを見ていたのでは真の対策にはならないと思うからです。もう一段上位の視点、すなわち持続可能な視点から日本社会を俯瞰するものでなければならないと思います。持続可能を維持できるのは、政府だけでもだめで、民間だけの力でも不可能です。考えられる限りの関係者の協働によってはじめて持続性が可能となるのだと思います。このため「産官学住金国(産業界・民間、官行政、学識経験者、住民、金融機関、国際共同)」がこれからのキーワードになるのではないかと考えています。

以上述べた思いを結合して、私たちは伊豆半島を舞台に「持続可能な健康長寿社会」の社会実装を展開したいと思います。その成果は伊豆の住民に恩恵を与えるものですが、日本あるいは世界に向けて発信される「地球公共財」になることを望みたいと思います。つまり、世界の全ての人が活用可能な生活習慣病を克服し、安心して長寿を全うできる技術であり、仕組みであり、思想が伊豆で創造されることを期待しています。また伊豆で育った人材が、日本や世界に羽ばたいていって欲しいと思います。
私は2018年の春、奈良の斑鳩の里・法隆寺を訪問しました。そのとき突然に「陽伊豆る国構想」という名称が閃きました。聖徳太子の書簡の如く極東の伊豆から日が昇るように、伊豆で生まれ育った地球公共財や人材が世界を照らしていってもらいたいという意味が込められています。陽伊豆る国構想は関心のある全ての方に門戸を開いています。皆さんのご参加をお待ちしています。

陽伊豆る国構想準備室 室長 湯浅 資之
順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域 教授
順天堂大学グローバルヘルスプロモーション・リサーチセンター 副所長

【室長プロフィール】
湯浅 資之(ゆあさ もとゆき)順天堂大学国際教養学部 国際教養学科 教授
北海道大学医学部を卒業。北海道保健環境部、北海道静内保健所長を経て、国際協力事業団(JICA)フィリピン国エイズ対策プロジェクト、ブラジル国東北ブラジル健康なまちづくりプロジェクトのチーフアドバイザーを歴任。国立国際医療センター国際医療協力局勤務の後、北海道大学大学院、順天堂大学大学院医学研究科を経て、現職。




森博威
副室長挨拶

海外でも、地域でも活躍できる医療人を目指して
(Global General Physician育成プロジェクトへのお誘い)

日本では類をみない速さで高齢化が進んでおり、多くの日本の地域は深刻な問題を抱えています。地域現場では雇用機会が減少に伴い、多くの若者は都会に出ていき、高齢者が田舎に残ります。若者を中心とした人口減少の結果、学校、医療機関が統廃合され、更に人口は減少し、村は限界集落となっていきます。今後50年の間に多くの過疎の村が消滅の危機を迎えています。

日本の地域医療の難しさは様々な社会問題と密接に関わっています。1例としては病院の経営状況も重要な課題です。日本の現在の医療制度の元、病院が継続して地域で医療を続けるためには、病院は十分な収益を上げる必要があります。現制度では地域の2次病院が収益を確保することは困難です。病気の収益のためには多くの患者さんを診る必要があります。急性期、重症管理、手術やカテーテル治療、内視鏡様々な高度医療なくして病院は十分な収益を上げることは難しく、人口が減っている村、町での病院経営を困難としています。

地域医療保健の現場では、予防、1、2、3次医療のバランスが重要です。医療の進歩と専門特化により地域医療保健のバランスは崩れてきています。脳卒中に対する血栓溶解療法、心筋梗塞に対するカテーテル治療のように専門性の高い救急医療の進歩により、治る病気が増えました。また内科のサブスペシャリティにおいても、特に血液腫瘍、膠原病疾患、肝炎、HIV等、この10年で医療の進歩と共に、治療はより複雑になりました。内科領域だけをとってみても診療ガイドラインは膨大な量があります。

一方で総合診療の普及はまだまだ十分でないように感じます。診断が難しい疾患、多科に渡る疾患、社会的な事情、緩和治療。高齢化と共に、より生活に密着した総合的なアプローチが地域医療の現場で必要とされています。急性期の質は慢性期の管理によって決まります。予防、日々の生活をどう支えていくか、体力が落ちてきた高齢者の最期をどう支えていくか。地域医療の喫禁の課題です。

日本では医療と保健が別々に機能しており、多くの場合連携が十分でないように感じます。予防においても、生活習慣病に対する1次予防の取り組みが十分でなく、小児、壮年期、高齢者、全ての年代の方を見渡したアプローチが必要となります。湯浅室長のコメントにあるように医療、保健は生活の一部です。地域医療に携わる医療者は、病院の中から地域に出る必要があります。コミュニティの現状を見える化、把握したうえで住民と密接に関わり、多職種連携の元、持続可能な健康社会を作る取り組みがより必要とされています

私は感染症のサブスペシャリティを勉強するためにタイに行き、現在もマヒドン大学熱帯医学部の特任教授として臨床、研究に関わっています。寄生虫感染症等、感染症の現場はタイでは田舎にあり、現場に関わるにつれ、徐々にタイの地域医療保健に携わるようになりました。国が変わっても医療、保健の本質は変わりません。生活、習慣、文化、衛生、教育、医療保険制度、人材育成、様々な要素の中で医療、保健は人々の生活を支えています。
タイの地域保健の一部は日本よりも進んでいました。村の保健師、ヘルスボランティアは村人全員を把握しており、血圧、糖尿病のスクリーニングを行っています。医療、保健部門は全ての病院に併設され、訪問診療の際、密接な連携が行われます。タイの地域医療保健の現場に行く度に学ぶことが多くあります。同時に私たちがアジア諸国の医療保健関係者、現場に提供できることも多くあります。

私は国際医療保健、日本の地域医療保健、両者に関わりながら双方向性に様々なものを改善していくロールモデルを作っていきたいと思います。総合診療科のサブスペシャリティとして国際医療保健、地域医療保健を担う人材、Global General Physicianは今後日本に必要とされる人材になると思います。。そのために必要な要素は4点あると思います。

1)総合診療医、内科医として確かな臨床力
2)地域医療保健現場で多職種連携の元、コミュニティヘルスに関わる
3)疾患、地域の問題点を、研究手法を通してアプローチ、アウトプットする
4)国際医療保健のアプローチを学び、国内外の医療保健を繋ぐ活動に従事する

陽伊豆る国構想は伊豆をモデルとして、持続可能な地域健康社会をつくることを目標として活動します。湯浅室長の長年に渡る熱い思いを軸に多くの人が集まり始めています。将来的には伊豆に限定することなく、多くの日本の地域の場でモデルとして機能することを期待しています。
今回、陽伊豆る国構想 準備室として活動部門を立ち上げます。研修部、臨床部、研究部、AIビッグデータ部、研究部、健康まちつくり部に分かれて今後様々な活動を行います。
若い医師のキャリアとしては、海外の現場も経験し、また地域医療のクリニック、病院で勤務しながら、地域に入り、研究、教育に関わってもらえるようなプログラム作成を予定しています。

「海外でも、地域でも活躍できる医療人を目指して」
指導医、研修医、学生問わず、興味がある方は一緒にやりましょう。1ヵ月に一度定期的に勉強会を行い、皆で集まり、ディスカッションします。お待ちしています。

陽伊豆る国構想準備室 副室長 森 博威
順天堂大学 順天堂医院 総合診療科 講師
マヒドン大学熱帯医学部 特任教授
公立岩瀬病院 総合診療科
NPO法人グローカルメディカルサポート 理事長
とちノきネットワーク 代表世話人
熱帯医学PhD、総合内科専門医

【副室長プロフィール】
森 博威(もり ひろたけ)2002年鹿児島大学医学部を卒業、沖縄県立中部病院で内科研修終了後、宮古島、福岡、北海道、福島で地域医療に携わる。現在は順天堂大学順天堂医院総合診療科 講師。2010年にタイ王国マヒドン大学熱帯医学DTM&H、2014年PhDを卒業し、現在は特任教授として継続して教育、研究に関わっている。毎年タイで開催するマヒドン大学熱帯医学短期研修には40名を超える日本人の医療従事者が参加している。国内外の地域医療を繋ぐ活動としてNPO法人グローカルメディカルサポート、とちノきネットワークを主催している。
専門領域は総合内科、地域医療、熱帯医学、消化管感染症(原虫)